尋常性乾癬の新しい治療法を求めて
NO.134 2005/10/7

 わたしは先に、このホームページのNo.36 尋常性乾癬の治療(2002/4/10)において、乾癬の治療発展の歴史について述べましたが、最近とくに著しい免疫組織学の成果をもとに、尋常性乾癬の新しい治療法を考えてみたいと思います。

乾癬の病因と最近の考え方

 乾癬は鱗屑を伴った慢性の炎症性角化症であり、組織学的に表皮細胞の過増殖・分化異常、血管新生、活性化T細胞の表皮/真皮への浸潤と、表皮内への多核白血球の浸潤、とくに角層への好中球の浸潤を特徴とする疾患です。その病態は、活性化T細胞を主体とした炎症細胞が乾癬皮疹の成立により重要な役割を果たしており、乾癬の皮疹部では、表皮細胞およびT細胞を主体とする炎症細胞から産生される種々のサイトカインが複雑に絡み合い、お互いを刺激しつつ、乾癬皮疹形成に関与しているのではないかと考えられています。

内服療法について

※ 塩酸エピナスチンが乾癬に効く理由
 尋常性乾癬はTh1病の代表疾患であり、Th2の集積、つまりアレルギーに関わる反応とは相反するものと考えられています。
 そこで、T細胞に対するケラチノサイト由来のケモカインに着目し、塩酸エピナスチンの影響を検討した結果、塩酸エピナスチンは培養ケラチノサイトのTh1ケモカイン産生、免疫担当細胞表面分子の発現を抑制することが明らかとなりました。
 塩酸エピナスチンはTh1細胞が表皮に向かって遊走し、活性化するのを抑制することが可能であり、同薬は尋常性乾癬においてTh1細胞の浸潤という乾癬の病態そのものを抑える効果が期待できます。

※ 塩酸オロパタジンが乾癬に効く理由
 以前は、乾癬患者に「かゆみ」を伴なうことは少なかったのですが、近年、罹患率が皮膚科外来の約2%を占めるという報告もあり、「かゆみ」を伴なう患者が増加傾向にあり、最近の報告では乾癬患者の半数以上が「かゆみ」を訴えていると言われています。
 最近のBritish Journal of Dermatology (2003; 149: 718-730)に、尋常性乾癬と「かゆみ」との関係について書かれた論文が載っていますが、協和発酵の学術部は、これを次の表のようにうまく纏めています。



 これによりますと、乾癬患者では、「かゆみ」を訴える症例にサブスタンスPが増えていることが明瞭に示されています。
 塩酸オロパタジンは抗ヒスタミン作用に加え、IL-8の産生・遊離抑制作用、および神経ペプチド遊離抑止作用を有する薬剤です。
 野見山 朋彦氏は、尋常性乾癬における塩酸オロパタジンの長期内服による臨床効果を検討しております(アレルギーの臨床 23-10, 2003)が、皮膚症状の改善率は塩酸オロパタジンの内服日数が増すにつれて増加し、内服2週後には34、5%、内服終了時には81.6%としています。
 また、増谷氏ら及び吉川氏らは尋常性乾癬患者の皮膚症状に対する改善率を、塩酸エピナスチン内服で夫々21.2%及び64.5%と報告しています。

外用療法について・・・とくに活性型ビタミンD3外用薬の効果

 一方、ビタミンD3外用療法が、最近における乾癬の新しい治療法の主流となっていますが、近年、D3の活性体がカルシウム代謝調節ホルモンとしての働きをもっている以外に、ビタミンD3受容体を介して細胞の増殖抑制、および分化誘導作用を有することが明らかにされ、これがとくに尋常性乾癬に対して有効であることが報告されています。

 ビタミンD3受容体は角層を除くすべての表皮細胞、皮膚線維芽細胞に存在することが知られています。さらに1/2から2/3のランゲルハンス細胞、単球、T細胞にも存在し、血中のBおよびT細胞は活性化された後にビタミンD3受容体を発現することが知られています。
 ビタミンD3の皮膚における作用の一つは受容体を介してのものが考えられますが、受容体を介さないものもあるとされています。
 ビタミンD3には表皮細胞増殖抑制効果、表皮細胞分化促進作用に加え、表皮細胞からのインターロイキン(IL-1)やIL-6/8などのサイトカイン産生抑制、IL‐1刺激によるT細胞の増殖抑制・免疫グロブリン産生抑制、T細胞からのIL‐2、6産生抑制、多核白血球の遊走抑制などの炎症細胞に対する効果も知られています。

 下記の図は、自治医科大学皮膚科教授・中川 秀巳先生の論文から引用したものですが、左の図は、活性化T細胞を主体とした炎症細胞が乾癬皮疹の成立に如何に重要な役割を果たしているかを示し、右の図はビタミンD3の乾癬皮疹に対する作用部位を示しています。



実際の治療にあたって ・・・ とくに内服と外用の併用について

 上述のことから、実際の治療に際して、内服療法と外用療法を併用して効果をあげることが期待されますが、群馬大学医学部の安部正敏先生らは「尋常性乾癬に対する高濃度活性型ビタミンD3外用療法における塩酸エピナスチン内服の併用効果」について既に発表しております。
 これによりますと、活性型ビタミンD3単独外用療法で皮疹が改善しない例でも、塩酸エピナスチン内服を追加することにより、半数の症例で皮疹の改善が得られたということです。
 そして、尋常性乾癬の治療において、塩酸エピナスチンは、高濃度活性型ビタミンD3外用療法の補助療法として明らかに有用であるとし、両剤は乾癬治療において比較的安全性の高い薬剤の組み合わせであり、瘙痒を有する尋常性乾癬に対して試みる価値のあるcombination therapy であると述べています。

 今 わたしの手元に、以上の内服と外用を併用して治療している症例が8例ありますが、それは次のような使用例で、何れもかなりの効果をあげていることを速報としてお知らせしておきたいと思います。
 
※ 塩酸オロパタジン内服単独、またはそれと塩酸エピナスチンの併用例
※ 以上の内服症例に、下記のように外用を併用している症例
 活性型ビタミンD3軟膏を一時的に副腎皮質軟膏と併用するが、経過をみながらD3軟膏単独使用に切りかえている症例

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