アトピー性皮膚炎の病態指標について
NO.144 2006/2/15

 アトピー性皮膚炎の治療経過を診るのに、ただ皮膚症状だけを診るのでは駄目です。検査によって病態をよく把握し、治療によって皮膚症状とともにが検査所見が如何に好転するか、そのエビデンスを根拠に治療効果を判定しなければなりません。

 現在、日常診療において、血清IgE、LDH、末梢好酸球数を病態指標として診ていますが、将来は血清TARC、MDCなどのTh2ケモカインをはじめアトピー性皮膚炎の重症度を示す血漿中のNGF量やSP量なども、皮膚科の実地診療において測定できることを願っています。

とくにアトピー性皮膚炎とIgEについて 

 IgE抗体とアトピー性皮膚炎との関連性につきまして、常にその病態と深く関与するものとして捉えられてきましたが、IgE抗体が実際にどのように関わっているかは、不明の点が多いようです。
 しかし、臨床的には皮膚炎の増悪時にIgEが急激な上昇がみられること、罹患期間、重症度に比例して上昇がみられることが多いことより、アトピー性皮膚炎の発症、進展にIgEが強く関与しているものと考えられています。
 
 一体に、総IgEの値が高い場合に皮膚症状はひどいようですが、IgEが高い割には皮膚症状が軽い場合もあります。つまり、皮膚症状が軽いけれども、検査をしてみるとIgEが高い場合がありますので、注意しなければなりません。
 ステロイド外用などで急性の増悪をコントロールすることにより、皮膚症状の改善後、数ヶ月してIgE抗体値の低下がみられるとされていますが、 わたしが50人の患者さんについて、治療経過によるIgEの変動をみましたところ、次のようなことがわかりました。
 




 即ち、臨床検査で、IgE値を中心に治療経過を追ってみますと、IgE値は皮疹が軽快するとともに低下することが多いようですが、例外もあるということがわかりました。

※症 例 提 示

次に2つの症例を挙げてみましょう。
 1つは完治したと思われる症例で、極めて忠実に2週間に1回の受診を繰り返し、5年間の治療で高かったIgEも正常範囲に安定し、治療を中止して1年を経過しても臨床的に治癒と判断された症例です。 
 いま1つは、不規則な治療ながら、約6年の治療経過でかなり症状は軽快しましたが、IgEの値がまだかなり高いことを示す症例です。



 以上の症例よりわかりますように、当クリニックの診療方針に従って規則正しい治療を受けておられれば、完治することもあり得るということがお分りいただけたと思います。

病態指標と今後の問題

 前述のように、現在日常診療において、血清IgE、LDH、末梢好酸球数を指標に病状を把しながら経過を診ていますが、将来は次のようなものが病態の指標として加えられることになると思います。

※TARC、MDC値、および NGF量、SP量を指標に  
 
 特にTh2ケモカインであるTARC、MDCの関与が最近注目されています。
玉置 邦彦先生らは、最近、「アトピー性皮膚炎の病勢指標としての血清TARC/CCL17値
についての臨床的検討」と題して論文を発表されていますが、これによって血清TARC/CCL17値は、アトピー性皮膚炎の皮膚病変の程度を非常によく、しかも短期間に反映する指標であると考え、アトピー性皮膚炎の皮膚病変をモニターする上で有用であると云っています。
 
 これに比べて、血清IgEは、長期にわたるアトピー性皮膚炎で高値を示すとされ、事実アトピー性皮膚炎では、通常数週から月単位で増減し、短期的な治療効果の指標にはならないとされています。したがって、この病勢を表すとされる指標が皮膚症状と共に鋭敏に変動するとは言い難いため、アトピー性皮膚炎の病勢を短期間に反映する臨床指標が求められていました。
 この意味で、TRAC/CCL17値はアトピー性皮膚炎の皮膚病変を非常によく、しかも短期間に反映する指標として非常に便利であり、加えて、血清TARC/CCL17値の700pg/mlが軽症と中等症以上を区別する値としてよく、治療を考える上でも参考にしてもよいとされています。

 また、前述のように、血漿中のNGF量やSP量なども、アトピー性皮膚炎の重症度を示すマーカーになり得るとされていますから、将来これも指標に加えられて実地診療に役立つことができるよう切望するものであります。

 TARC(thymus and activation regulated chemokine)/CCL17
 MDC(macrophage derived chemokine )/CCL22
 NGF(nerve growing factor)
 SP(substance P)

参考資料

1)No.81 アトピー性皮膚炎とサイトカイン (2004/1/11)
2)No.95 皮膚病変と関係のある検査値について (2004/5/31)
3)No.103 アトピー性皮膚炎は完治できるか (2004/8/30)
4)アトピー性皮膚炎の病勢指標としての血清TARC/CCL17についての臨床的検討
  玉置 邦彦他:日皮会誌:116、27〜39、2006(平18)

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