マラセチアと皮膚疾患
NO.163 2007/12/16

 マラセチアは環境中には存在せず、ヒトや動物の皮膚に常在する担子菌系の酵母で、増殖に脂質を要求することから、皮脂の多い部位に定着しやすいとされています。
 その代表的皮膚疾患として癜風が挙げられますが、脂漏性皮膚炎等の各種皮膚疾患の原因となるマラセチア(Malassezia)の研究は、ここ10年の間に飛躍的に進歩しました。

マラセチアの分類について

 マラセチアは19世紀末に初めて記載された真菌で、1904年、Sabouraud はこれにPityrosporumという名前を使用しました。
 それ以後、マラセチアの酵母型をPityrosporum、菌糸型をMalasseziaとする名前が長く使用されてきました。しかし、形態は異なるものの生理生化学的性状は同じであることから、1984年、Yarrowの分類で、Malassezia furfurに統一されました。
 その後、形態学的特徴、脂質利用能、カタラーゼ活性や、菌由来のDNA配列を検出することにより、2005年にはMalassezia属として11菌種が報告されています。

マラセチアの関与する皮膚疾患について

1.マラセチアと癜風
 癜風は直接鏡検により菌糸形が観察されるMalassezia 感染症で、俗に「くろなまず」と呼ばれています。その治療としては、イミダゾール系抗眞菌剤であるケトコナゾール(ニゾラ―ル)の外用やイトコナゾ―ル(イトリゾール)の内服がよく使用されています。いずれの薬剤もよく効きますが、再発しやすいのが欠点です。

2.マラセチアとマラセチア毛包炎、および「にきび」
 最近、「にきび」の患者さんを診ていますと、よく前胸部と上背部に「にきび」様の丘疹が多発している患者さんに遭遇することがありますが、実際は、マラセチアによる毛包炎であることが最近わかってきました。
 これをマラセチア毛包炎と言って、このような場合、真菌の胞子が毛孔(脂腺開口部の毛漏斗部)に寄生し、それの有するリパーゼという酵素によって皮脂が分解され、そうして生じた遊離脂肪酸が病変を引き起こすことになるわけです。
 マラセチアは皮脂を好んで棲息するものですが、一般に、過労やストレス、睡眠不足、過食、抗生剤、ステロイド剤の使用等によって皮脂が増加するので、これに伴ってマラセチアも増加し、炎症が惹起されやすいと言われています。 そこで、上記ケトコナゾールはこのマラセチアのリパーゼの働きを抑えることにより、治療効果が発揮されることになるわけです。
 また、一般に「にきび」の治療には新キノロン系外用抗菌剤であるナジフロキサシンクリーム(アクアチムクリーム)がよく使用されていますが、上記のような症例では、外用真菌剤であるケトコナゾールクリーム(ニゾラールクリーム)の併用により著効が得られます。

3.マラセチアと脂漏性皮膚炎 
 その病因として、最近では, 脂質親和性真菌であるPityrosporumによる感染説が有力です。即ち、脂漏性皮膚炎の病変部には、皮膚常在真菌であるMalassezia furfur (マラセチア菌)が確認され、これと脂漏性皮膚炎との関連性が示唆されています。  皮膚常在菌として知られているMalassezia furfur(マラセチア菌)は癜風(クロナマズ)の原因菌として知られている脂好性の真菌ですが、それの有するリパーゼという酵素の働きで皮脂が分解され、そこに生じた遊離脂肪酸が病変を引き起こすことになるわけです。
 このことに関しましては、このホームページのNo. 63 脂漏性皮膚炎に関する最近の治験(2003-8-10)で既にお話しました。

4.マラセチアとアトピー性皮膚炎
 近年、「アトピー性皮膚炎と真菌」の問題が論ぜられ、アトピー性皮膚炎の悪化因子として、とくに真菌が注目されています。 順天堂大学・比留間氏の研究によりますと、皮膚常在菌であるマラセチア属が、とくに治りにくい頭頚部皮膚炎症例の80%に検出され、マラセチア抗原に対する特異抗体が53%に証明されたということです。
 つまり、過労やストレス、睡眠不足、過食、抗生剤やステロイド剤の使用などによって皮脂が増加するとマラセチアが増殖し、それに対する非特異的炎症によってバリヤーが破壊され、その結果、マラセチア抗原によるアレルギー反応が惹起されるものとしました。

5.マラセチアと脂漏性角化症
 これは、これまでの経験に加え、ごく最近知ったことですが、野間等の研究において(脂漏性角化症と脂腺母斑におけるマラセチア腐生 ― 西日皮膚・60巻2号・1998)、脂漏性角化症、とくに角化型脂漏性角化症の病理組織像においてマラセチアの群生像が指摘されております。そして、一般に、微生物が土壌、水、動物死体や植物の有機物を栄養として生息している状態を腐生(菌)と呼んでいますが、皮膚病変の発生病理に関与することなく偶然検出される程度に増殖した状態を腐生(眞菌)と呼んでもいいのではないかとしております。 
 わたしは、かねてより、脂漏性角化症の治療にヒルドイド軟膏を長期間外用させてかなりの効果をあげていますが、その前にニゾラ―ルローションを併用して更にその効果を深めべく、目下検討中です。

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