ストレスと皮膚
NO.107 2004/10/30

 皮膚はからだの表面を被う人体最大の器官で、成人で約1.6平方メートルという広い総面積で人体を保護しています。また、皮膚はからだのいろいろな器官の中で最も早く発生し、個体と外界とのコミュニケーションの最初の媒体です。
 皮膚には、与えられた感覚刺激を神経衝動として脳に送り込み、その刺激が不適当な場合にはこれを避けようとする働きがあります。つまり、皮膚には多くの神経線維がきていて、表面に近く幾種類もの神経終末がアンテナのように張りめぐらされております。
 そして、後でお話しますように、末梢神経繊維が表皮内に入り込んで皮膚の免疫細胞(ランゲルハンス細胞)と接触し、脳からの神経伝達物質が直接受け渡されている状態が最近になって確認され、脳と皮膚の直接的なつながりが再確認されました。
 また、ランゲルハンス細胞だけでなく、表皮のメラノサイトにも神経線維が接触することが証明されており、皮膚と神経の結びつの深いことがとに注目されています。

ストレスについて

 一般に、ストレスというと専ら精神的ストレスのことを言いますが、本来ストレスとは、一定の状態を保とうとする生命に対し撹乱するあらゆる刺激をストレッサー(ストレスを与えるもの)といい、両者を合わせてストレスと呼ばれることが多いようです。

ストレッサ−の種類

 ストレッサ−の種類は、物理的ストレッサ−(寒冷、騒音、放射線など)、化学的ストレッサ−(排気ガス、タバコ、薬品など)、生物学的ストレッサ−(細菌、カビ、ウイルスなど)、精神的ストレッサ−(不安、恐怖、怒り、憎しみ、罪悪感などを引き起こす家庭や学校、職場における人間関係や役割上の問題など)などに分けられていますが、人間にとって最も重要なストレッサ−は精神的なものでしょう。

精神的ストレッサ−の影響

 精神的ストレッサ−は脳中枢を介して末梢臓器の働きに次のような機序で影響を及ぼしていると考えられています。
1)精神的ストレッサ−が、中枢性に諸種の脳内物質を介して自律神経・内分泌系・免疫系の機能を低下させ、それが加わらなければ防禦できる程度のアレルギー反応を顕在化させる。
2)精神的ストレッサ−が、脳内または末梢性にサブスタンスPなどの神経ペプチドを放出させ、それによるヒスタミンなどの化学伝達物質の遊離が過敏な臓器にアレルギー反応と同様の身体症状を引き起こす。
3)特定のアレルゲンによってアレルギー反応が引き起こされたとき、同時に加わっていた精神的ストレッサ−が結びついて条件づけができ、その後同一の精神的ストレッサ−が加わると、末梢神経を介して肥満細胞より化学伝達物質が遊離され、アレルギー反応と同様の身体症状が引き起こされる。

とくに皮膚における精神的ストレスの影響

※ ストレスと血液像
・ストレス→交感神経緊張→顆粒球増多→組織(粘膜や皮膚)破壊
・ストレスが続くと皮膚のみずみずしさが失われると共に、顆粒球の増多を伴うので化膿性の炎症が起きやすくなる。ニキビや高年齢でのアトピー性皮膚炎もこの流れの中にある。

※ ストレスと皮膚バリアー機能
 アトピー性皮膚炎、乾癬など皮膚バリアー機能の低下が認められる病気において、精神的ストレスがその症状に影響を与えていることが一般に知られていますが、精神的ストレスを与えたマウスにおいて、皮膚バリアー機能の回復が遅れること、鎮静剤を与えるとその遅れが少なくなることが実験によってわかっています。

※ ストレスと免疫
 ストレスは一般には免疫力を弱めて感染症にかかりやすくさせると信じられていますが、短期的ストレスは皮膚免疫を高め、生物の防禦機能を高めることが報告されています。(Skin’s immunity helped with a little stress)

※ ストレスとアレルギー
1)ストレスとIgE抗体産生
・ストレスは抗体産生に影響を与える
・免疫機能に影響を与える影響; サイトカインの産生や細胞性免疫能などは低下するが、IgE値は増加。
2)ストレスと血中ヒスタミン
・心理的ストレッサ−によって血漿ヒスタミン値の上昇をみることがある。
3)ストレスによるアレルギー反応の増悪
4)アレルギー反応の条件付け
 臨床的に条件づけによると思われるアレルギー様症状の出現は、古くより観察され、報告されている。

ストレスに弱い人

 わたしの経験にとりますと、割に痩せ型の人で、肩凝りや、時にめまいを訴えて疲れやすいと言う人がいますが、多くの場合冷え性で、便秘がちで、ひどい時は生理不順を訴えたりします。このような人は一般に血圧は低く、わたしは、これを低血圧症候群と呼んでいます。
 これは問診表で大体推察がつきますが、このような人の皮膚は所謂荒れ性で、日光の紫外線に弱い人が多く、皮膚描記症はしばしば陽性を呈します。
 わたしは、これを自律神経障害(または、自律神経の緊張異状)の皮膚表現と考えて、これを日常診療に役立てていますが、これが所謂「敏感肌」の発生メカニズムの有力な根拠になります。更にこのような人では、皮膚のバリアー機能の低下も手伝って、ストレスに弱い人ということができます。

皮膚における心と体の結びつき

 1993年、ハーバード大学皮膚科学研究所の細井らは、神経ペプチドの一つであるカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)の免疫染色を応用した免疫電子顕微鏡写真によって、末梢神経繊維が表皮内に入り込み、皮膚の免疫細胞であるランゲルハンス細胞に接触し、脳からの神経伝達物質が直接受け渡されている事実(下図左に示す)を発見しました。
 そして、心と体が皮膚の中でつながっている事実を世界ではじめて証明したものとして高く評価されました。
 また、ランゲルハンス細胞だけでなく、表皮のメラノサイトにも神経線維が接触することが報告され、メラノサイトの分裂や機能の制御にも神経ペプチドが関わっている可能性が大きくなりました。Murphyは、皮膚の構成細胞が神経で統合支配されていることに注目して、NIN(neural- immunological network)という概念を提唱しましたが、生体における皮膚の複雑な制御を解読する上で非常に参考になり、心を映す鏡である皮膚への理解が一層深まるものと思われます。(下図右に示す)




主な参考文献

1)臨床医のためのスキンケア入門(宮地良樹編)1997年10月20日発行(尖端医学社)
2)皮膚と健康−ストレスとたたかう皮膚の仕組み−(伊崎 誠一著)1998年8月20日
発行)(丸善株式会社)
3)皮膚免疫を通した神経と皮膚のつながり(朝比奈昭彦)
 資生堂インフォメーションレター No. ’98,003 (1999年3月31日)
4)アレルギーの臨床21(8)2001 「特集 ストレスとアレルギー」
 その生物学的基礎(吾郷 普浩 )
5)白血球分画が皮膚の健康状態と関連するメカニズム(安保 徹)
 コスメトロジー研究報告 第9号 (2001)
6)メンタルストレスと角層機能〜メンタルケアは皮膚バリアー機能を改善させる  か?〜(傳田 光洋)
 第100回日本皮膚科学会総会・イヴニングセミナー(2001年4月6日〜8日)
7)短期的ストレスは皮膚免疫を高める
 Skin’s immunity helped with a little stress(Holly Wagner)
 Medical News TODAY (Feb, 07, 2004)

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