皮膚のアレルギー性炎症と神経とのかかわり
NO.122 2005/6/15

 皮膚と神経との関係につきましては、本ホームページのNo.70 皮膚と自律神経(2003/10/5)、No.107 ストレスと皮膚(2004/10/30)、No.118 かゆみとその対策〜新しい見地から(2005/4/15)、No.120 ランゲルハンス細胞について(2005/5/15) において既にお話しましたが、今回は皮膚のアレルギー性炎症と神経とのかかわりについて、少しまとめてみたいと思います。

神経伝達物質について

 皮膚には求心性神経である知覚神経と、遠心性神経である自律神経が存在し、後者はアセチルコリンを神経伝達物質とする副交感神経と、アドレナリンを神経伝達物質とする交感神経に分けられます。
 また、知覚神経にはSP、CGRP、neurokinin Aが、副交換神経にはvasoactive intestinal peptide(VIP)、peptide histidine-isoleucine/methionine(PHI/M)が、交感神経にはneuropeptideY(NPY)などの神経ペプチドが、それぞれ共役神経伝達物質として存在しています。
 サブスタンスPを含むタキキニンと総称される一連のペプチドは、類似の構造を有し、中枢神経系において神経伝達物質として機能していますが、近年、新規ナンバーが同定され、より広義の情報伝達物質としてさまざまな生命現象にも関与していることが明らかになりました。 とくに、痛み、炎症、嘔吐、うつ、不安 などの病態に重要な役割を果たしています。

神経原性炎症

 これらの中で、SP やCGRPは種々の刺激によって知覚神経・C-fiberの神経末端から放出されますが、強力な血管拡張作用とそれに引きつづく血管透過性の亢進、血漿成分の漏出作用を有し、皮膚肥満細胞(マスト細胞)を活性化して種々のメディエーターを遊離させ、更なる炎症反応を惹起することが知られています。
 トウガラシからの抽出物であるカプサイシンを皮膚に外用または注射しますと、神経の活性化やサブスタンスPをはじめとする神経ペプチドの遊離を引き起こし、痛み、痒みの感覚と紅斑を生じさせ、注射の場合は膨疹も生じることが知られています。
 動物実験によりますと、少なくとも齧歯類ではサブスタンスPにより引き起こされる好酸球および好中球の皮膚への浸潤は、肥満細胞(マスト細胞)を介した反応であることが示されています。
 また、形態学的にも神経線維と肥満細胞は蜜に接していることが確認されています。
 そして、このような神経ペプチドによる肥満細胞の活性化は、皮膚肥満細胞に特徴的で、肺など他臓器の肥満細胞では殆んど認められないとされています。

アレルギー性炎症

 体に備わった生体防禦システムを免疫と言っていますが、体外から入り込んできた異物を排除しようと過剰に反応するときにアレルギーが起こるわけです。
 アレルギー症状には喘息をはじめ、アトピー性皮膚炎、花粉症など色々ありますが、このようなアレルギー反応を、その内容から以下に示す4つのタイプに大別することが出来ます。

儀拭淵▲淵侫ラキシー型):IgE抗体によって引き起こされるアレルギー
 抗原が体内に侵入すると、短時間で反応が見られるので、即時型反応と呼ばれています。肥満細胞(マスト細胞)と呼ばれるヒスタミンを出す細胞の膜表面のレセプター(受容体)に、ある特定の抗原と結合したIgEと呼ばれる抗体が結合すると、肥満細胞からヒスタミンが遊離し、アレルギー症状が現れます。ショック症状が強い場合には、死に至ることもあります(アナフィラキシー)。
 主な疾患名:気管支喘息、蕁麻疹、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎

況拭丙挧ζ之拭法Ъ己免疫疾患も引き起こす
 自分の体の細胞に反応するIgG抗体やIgM抗体が作られたり、また輸血などによって移入された場合に起こるものです。タイプの異なる赤血球などの抗原が、補体や貪食細胞(マクロファージ)の働きで破壊・溶解され、その結果、体に障害が現れます。
 主な疾患名:薬物アレルギー

祁拭淵▲襯汽昂拭法Ч蓋狭蛎諒9臑里砲茲觴栖
 液性の抗原に対して抗体が結合し、免疫複合体をつくりますが、これが体内を流れ、組織に沈着することにより誘発される反応です。
 主な疾患名:血清病

厳拭蔽抉箏拭法T細胞依存の遅延型過敏症
 細胞性の免疫反応で、この型では抗体は関与せず、病因抗原はリンパ球よりリンフォカインを遊離させ、局所にマクロファージなどの炎症細胞を遊走させ、遅延型の炎症を起こします。
 つまり、抗原とリンパ球の反応で誘発されるアレルギーで、抗原提示細胞や貪食細胞などとよばれる免疫に関与する細胞がかかわった反応です。
 主な疾患名:接触性皮膚炎



 そこで、アレルギー疾患の発症には、以上のアレルギー性炎症に非アドレナリン非コリン性の神経線維から遊離するタキキニンなどの神経ペプチドが引き起こす上述の神経原性炎症が加わり、掻くことによってこれが一層はげしくなりますが、蕁麻疹・アトピー性皮膚炎を例にこの関係を図示しますと下記の図のようになります。






※ 蕁麻疹は一過性の局所の紅斑、膨疹、遠心性に拡がる血管拡張反応(triple response)とともに強いかゆみを特徴とする疾患で、肥満細胞の脱顆粒による血管の拡張と血管透過性の亢進による限局性の浮腫(膨疹)がこのアレルギーの本態です。
 しかし、これらの症状は引っ掻いたりすることによって生じたサブスタンスPの関与によって一層その症状が修飾されることになります。

※ また、アトピー性皮膚炎の場合も同様ですが、上図のように少し複雑になっています。
 つまり、アトピー性皮膚炎では表皮内への神経線維(C線維)の侵入、肥満細胞の表皮内存在、真皮の肥満細胞数の増加、好酸球、リンパ球の浸潤が組織学的な特徴です。
 バリアー異状を呈する角質層を介して、角層直下まで侵入している神経線維は外部からの刺激により活性化され、神経の興奮が惹起されます。
 そこで生じたインパルスは直接大脳皮質へ伝達され、そこでかゆみとして認識されます。 一方、神経分岐部から下行したインパルスにより神経先端部から放出されたサブスタンスPは神経線維上のNK1レセプターに結合し、神経を興奮させると同時に、ケラチノサイト、肥満細胞上のNK1レセプターにも結合して、ケラチノサイトからインターロイキン-1、TNF-α などの炎症性サイトカインを、肥満細胞からはヒスタミン、プロテアーゼ(トリプターゼ)、TNF-αを遊離させ、神経原性炎症を表皮内に惹起し、結果としてかゆみを誘発するようになります。
 真皮においても、抗原刺激により肥満細胞が活性化されてヒスタミン、トリプターゼ、インターロイキン-4、インターロイキン-5が遊離し、インターロイキン-5により活性化された好酸球からは活性酸素、組織傷害性蛋白(ECP、MBP)が、活性化されたリンパ球(Th1)からはインターロイキン-2が遊離して神経原性炎症が惹起され、結果として神経線維が興奮し、かゆみが引き起こされることになります。


参考にした主な文献
1.アレルギーと神経ペプチド: Vol.1 2005
     アレルギーと神経ペプチド研究会編集・日本医学館発行
2.高森 建ニ:かゆみと神経ペプチド(MEDICO Vol.35, No.6, 2004より)
3.服部 道廣:皮膚の免疫(1997年2月発行・スキンケアの科学より)

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